2024年1月から変わる贈与!(2023年12月8日更新)

2023年度の税制改正で生前贈与加算の期間延長が行われ、そのスタートが2024年1月1日と間近に迫ってきました。そこで今回は改正の内容と直前でもできる対応を解説していきます。

■改正のポイント

  • ➀生前贈与加算が「3年」から「7年」に延長された
  • ➁2024年1月1日以降の贈与から「7年」に延長される
  • ➂2023年中の贈与は改正の影響を受けずに加算期間は「3年」
  • ➃相続時精算課税制度に基礎控除110万円が設けられた

1.改正内容について

2023年度税制改正大綱で生前贈与が7年に延長!

  • 2023年度税制改正により、2024年1月1日以降に行われる暦年贈与については生前贈与加算の期間が「7年」に延長されます。これは納税者にとって不利な改正です。
  • 暦年贈与には毎年110万円の基礎控除がありますが、現行の制度では、亡くなる直前3年以内に行った贈与は相続財産に加算しないといけません。この加算には、110万円以下の贈与も含みます。
  • 今回の改正では、この加算期間が「3年」から「7年」に延長されました。改正はこの「7年」への延長だけでなく、もう1つあります。それは、贈与加算期間7年の内、延長した4年間の贈与についてはその贈与財産の総額から100万円を控除できるというものです。よって、納税者にとっては納税額が少なくなる改正です。
  • 例えば、亡くなる直前7年間に毎年110万円の生前贈与を行った場合、相続財産に加算するのは770万円と思われるかもしれませんが、加算するのは、下図のとおり、670万円となります。延長された4年間の合計で100万円の控除ですので、この4年間の間に毎年生前贈与があった場合でも100万円の控除となることに注意してください。毎年100万円の控除ではありません。
暦年贈与の改正案

<暦年贈与とは>

  • 1年間(1月1日から12月31日)に贈与でもらった財産に対して課税。
  • 年間で110万円以下の贈与額であれば贈与税は課税されない。
  • 相続開始前3年以内の暦年贈与は相続税の課税対象として戻し入れる。
暦年贈与について簡略化した図

スケジュールと加算期間

  • 生前贈与加算の年数は2031年(令和13年)まで段階的に延長され、最終的に7年になります。
  • 例えば、2028年(令和10年)10月1日に相続が発生した場合、相続財産に加算する期間は、2024年(令和6年)1月1日から2028年(令和10年)9月30日までの4年9ヶ月間の生前贈与を相続財産に加算することになります。
暦年贈与の改正案

相続時精算課税制度が改正、110万円の基礎控除が創設

  • 生前贈与加算期間延長の対応として相続時精算課税制度の活用も考えられます。
  • 相続時精算課税制度とは、親や祖父母から子や孫に対して贈与する場合に累計で2,500万円までは贈与税が課税されないという制度です。そのため、生前に多額の財産を贈与税がかからずに移転させることができるのですが、贈与者である親(祖父母)が亡くなったときに、その贈与した財産は相続財産に加算して相続税を計算しなければなりません。つまり、生前に無税で贈与した財産は相続する時に相続税で精算する仕組みとなっています。
  • 2023年度の改正で、現行の特別控除2,500万円とは別に、毎年課税価格から基礎控除110万円を控除できることになりました。また、毎年110万円までの贈与であれば申告不要で相続財産への加算も不要になります。
  • 相続時精算課税を選択している場合、亡くなる前日に贈与を行ったとしても、その贈与については生前贈与に加算する必要はありません。
  • 高齢の方や110万円以上の贈与を考えられていない方は、相続時精算課税制度を選択したほうが有利になるケースもありますが、一度、相続時精算課税制度を選択すると暦年贈与に変更することができませんので、慎重な判断が必要です。

2.生前贈与は相続税対策の王道

相続税は、被相続人が遺した財産を相続人が相続した場合に課される税金です。遺された財産が多いほど相続税の負担は大きくなる仕組みになっています。しかし、生前に贈与などで相続人に財産を移せば課税対象となる財産が減り、相続税を抑えることができます。

例えば、相続人が子供3人で1億円の財産がある場合の相続税は630万円ですが、生前に子供3人へ毎年100万円の贈与を10年間続けた場合、7,000万円の財産に相続税が課税されるため、相続税は219万円になります。つまり、相続税は411万円節税できたことになり、さらに100万円の贈与に対しては贈与税がかかりませんので、無税で3,000万円の財産を移転できたことになります。

相続税額について比較した図

このように生前贈与は、大きな節税効果が期待できることから相続税の生前対策の王道として、広く活用されていました。

一方で税務当局は富裕層を中心とした過度な節税を、かねてから問題視しており、2023年度の改正で課税強化しました。その1つが生前贈与加算です。生前贈与加算とは、相続または遺贈により財産を取得した人が、被相続人の相続開始前3年以内に暦年贈与によって取得した財産があるときは、その贈与によって取得した財産を相続財産に加算することです。

110万円以上の財産を贈与されたときは次の計算式で贈与税を計算します。
 <贈与税の計算式>
(贈与額-110万円)× 税率-控除額

■贈与税の速算表

課税価格 一般贈与財産 特例贈与財産()
一般税率 控除額 一般税率 控除額
200万円以下 10% 10%
200万円超~300万円以下 15% 10万 15% 10万
300万円超~400万円以下 20% 25万 15% 10万
400万円超~600万円以下 30% 65万 20% 30万
600万円超~1,000万円以下 40% 125万 30% 90万
1,000万円超~1,500万円以下 45% 175万 40% 190万
1,500万円超~3,000万円以下 50% 250万 45% 265万
3,000万円超~4,500万円以下 55% 400万 50% 415万
4,500万円超~ 55% 400万 55% 640万
暦年課税の場合において、父母や祖父母などの直系尊属からの贈与により財産を取得した受贈者(財産の贈与を受けた年の1月1日において20歳以上の者に限ります。)については、「特例税率」を適用して税額を計算します。この特例税率の適用がある財産のことを「特例贈与財産」といいます。また、特例贈与財産に該当しない「⼀般贈与財産」については、「⼀般税率」を適用して税率を計算します。

(ご参考)

400万円の贈与の場合、
一般贈与財産は、(400万-110万)× 20%-25万円=33万円となります。
特例贈与財産は、(400万-110万)× 15%-10万円=33.5万円となります。

先ほどの例では、亡くなる3年以内に行った贈与900万円(100万円×3人×3年)は相続財産にプラスして相続税を計算することになります。

つまり、亡くなった時点では7,000万円の財産ですが、900万円をプラスした7,900万円に相続税が課税されますので、納税額は315万円となります。相続財産7,000万円の場合と生前贈与加算900万円をプラスした7,900万円の場合の相続税額を比較すると、納税額が96万円増えることになります。

3.今後、私たちはどうするべき?

暦年贈与の加算期間の延長はインパクトが大きな改正です。この改正への対策は3つあります。

  • 孫へ贈与する
    • 生前贈与加算期間の対象は、相続または遺贈により財産を取得した人が対象です。つまり、相続人ではない孫や子供の配偶者への贈与は今後も加算の対象ではありません。
  • 2023年中に贈与する
    • 生前贈与加算の延長は2024年1月1日以降の贈与が対象です。つまり、2023年中に贈与すれば、加算期間は3年ですので、生前贈与を検討しているのであれば2023年中に行うとよいでしょう。
  • 相続時精算課税制度を活用する
    • 110万円の基礎控除が創設されたことにより、高齢の方や110万円以上の贈与を検討していない方にとっては相続時精算課税制度が使いやすくなりました。孫には暦年贈与で110万円、子には相続時精算課税制度による贈与で110万円とすると、より短期間で生前贈与対策ができます。

相続対策や相続税申告は、多くの方が初めての経験で不慣れなことがほとんどです。
 しかし、適正な対策や申告ができなければ、後日税務署の税務調査を受け、納税が生じることもありますのでご注意ください。
 また、具体的な税の計算方法や申告書の書き方など、税金のことでお困りごとがある場合は、信頼できる税理士にご相談ください。

 このコラムを書いたのは、、、
 【執筆者/神谷 智道 税理士】

神谷 智道

税理士法人アイユーコンサルティング代表/西日本統括

2009年福岡の中堅税理士法人に入社。
法人・個人の幅広い業種の顧問を担当し、その後、北九州の税理士事務所にて相続税申告や地主の相続対策を手掛ける。
2014年より税理士法人アイユーコンサルティングの前身である岩永悠税理士事務所の創業メンバーとして参画。
2015年税理士法人アイユーコンサルティングの北九州事務所長として新規顧客開拓など現組織の土台作りに携わる。
現在では、「日本のミライに豊かさを」というビジョンのもと、経営計画を軸とした経営アドバイスを実践し、企業の成長支援に強みを持つ。
豊富な知識と経験を活かし、経営者と同じ目線をもつパートナーとして活躍中。

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