法定後見制度とは、ご本人が認知症等が原因で判断能力がなくなった「後」に利用する制度です。
家庭裁判所に選ばれた成年後見人がご本人の全ての財産を管理することができます。また、ご本人にとって必要となる契約なども代わりに成年後見人が行います。例えば、ご本人の介護費用を口座から引き出したり、ご本人名義の不動産を売却したりすることもできます。さらに、入院したり、施設に入ったり、ケアマネージャーと契約したりと、ご本人の身のまわりや生活に密着している契約も成年後見人が代わりに行います。成年後見人は、結婚や養子縁組などの絶対に本人の意思で行わなければならない行為を除いて、ご本人に関するほぼ全ての契約を代わりに行うことができるとても心強い存在です。
ですので、法定後見制度は超高齢化社会に欠かせない制度と言えます。
法定後見制度を利用するためにはご本人の家族などが家庭裁判所に「成年後見人を選んでください」という申立をする必要があります。申立にはご本人の財産状況や判断能力がどの程度なのかを図った医師の診断書などを添付します。その申立を受けて、家庭裁判所が審査を実施し、後見人が選任されます。ちなみに、この申立の書類は家庭裁判所に備え付けてあるのでご家族が書類を作成することもできますし、その書類作成を司法書士などの専門家に依頼することも可能です。
法定後見制度を利用する上で最も注意が必要なのは、成年後見人を誰にするか決めるのはご本人や家族ではなく、家庭裁判所だということです。法定後見の申立手続きの中で「成年後見人としてこの人を選んでください」という希望は出せますが、誰を選ぶか決めるのはあくまで家庭裁判所です。実際に成年後見人に選ばれるのは、ご本人の家族よりも弁護士や司法書士等の法律専門家の方が圧倒的に多いのが実情です。特に、ご本人の資産が多い場合や親族間で争いがある場合に法律専門家が成年後見人に選ばれることが多いようです。近年の家庭裁判所の方針としては極力、親族を後見人に選ぶ方向にあるとのことですが、実態はまだまだ不透明です。
成年後見人には弁護士や司法書士などの法律専門家が選ばれることが多いと述べました。その場合、法律専門家に報酬を支払う必要があります。成年後見人の報酬は家庭裁判所がご本人の財産額に応じて決定します。基準としては、最低でも月額2万円で、管理する財産が増えれば報酬額も増えます。この報酬はご本人の財産から支払われますが、法定後見制度を利用する限り支払いが必要となるため、5年、10年と支払うことになり、総額が非常に高額になる場合があります。
法定後見制度は、一度利用を開始すると原則として途中でやめることはできません。やめることができるとすれば、判断能力がなくなったご本人の判断能力が回復して、ご本人自身で財産を管理できるようになった場合です。しかし、残念なことに認知症は一度発症すると現代医学では回復は不可能と言われているため、事実上やめることはできません。例えば、ご本人の生活費や介護費を定期預金を解約して捻出するために、法定後見制度を利用した場合、定期預金解約が完了しても、法定後見の利用を途中でやめることはできないのです。法定後見制度を利用する場合はご本人が亡くなるまでやめられないという覚悟が必要です。
法定後見はご本人の判断能力がなくなった「後」にご本人の財産を管理・処分することでご本人の権利を守ることができる唯一の制度です。超高齢化社会と言われる現代において欠かせない制度である一方で、家庭裁判所が成年後見人の中枢を担うことになるため、ご家族やご本人の意向が反映されにくい側面もあります。また、法律専門家が成年後見人になった場合多額の報酬が発生する可能性があり、経済的な負担が大きい制度でもあります。
法定後見を利用するか否かを検討する際はメリット、デメリットをしっかり認識する必要があります。
このコラムを書いたのは、、、
【執筆者/福田修平】
2007年法人設立。不動産登記を中心に幅広い相談を請負う一方、認知症等が原因で判断が難しくなった高齢者の財産管理をする成年後見をこれまで延べ120件受任。
2015年には新たな財産管理手法として注目される家族信託に取り組み、多くの高齢者の財産管理問題を解決に導いてきた。2018年には相続専門のコンサティング会社「相続アシスト」を設立し、士業の枠組みを超えた活動を展開している。