作文コンクール 
くらしの文集

 

6年生の作品

6年生  もみじ銀行賞

一年生からもらった物

荘山田小 六年 田 中 仁 季

「にきちゃん、はいっ。」
 一年生の女の子がとびっきりの笑顔で私に手紙を差し出した。一目見ただけで、この手紙を書くのにどれだけ時間がかかったのか伝わってくる。私の胸がぎゅっと熱くなった。
 その女の子は、私の一年生のペアだ。六年生となり、一年生とのふれ合い活動が始まった。ふれ合いルールはたった一つ。毎朝、ペアの子に「おはよう。」と声をかけるだけだ。それを入学式の次の日から一カ月間続けるのだ。しかし、六年生のみんなは、それだけではなく、ランドセルを一緒に片付けたり、運動場の使い方を教えたりなど、ペアの一年生が一日でも早く学校生活に慣れるように、自分で考え活動を工夫していた。私も、同じクラスの友達に負けないように活動を工夫した。
 ペアの一年生に初めて会ったときのことはよく覚えている。私を見てにっこりと笑ってくれた。それで、わたしはすぐ仲良くなれた。その子を見ていると、一年生のころの自分を思い出す。私は大好きだった幼稚園の先生や友達と離れ、荘山田小学校へ入学した。そのときの不安な気持ちは今でも覚えている。学校がとてつもなく大きな存在に感じ、吸いこまれてしまいそうだった。小学校へ入学するということは、当時の私にとって大変な出来事だったのだ。だから、ペアの一年生には、学校って楽しいと思ってもらえるようにしてあげたいなと思った。
 次の日から、私達は毎日一緒に遊んだ。私がアスレチックに登ると、ペアの一年生も一緒に登ってくる。二人が並んで登ると、その子がとても小さいのがよく分かる。私はまるで自分が巨人になったみたいな気分がした。アスレチックの一番高い所で、二人でにっこりと笑い合うと、私の心はほんわりと温かくなる。こうやって私たちはどんどん仲良くなっていった。
 そんなある朝、私が一年生の教室の前を歩いていると、ペアの子が急いで教室から出てきた。そして何も言わず、急に私の服をぎゅっとつかんできたのだ。そして、笑顔で渡してくれたのが、あの手紙だ。私は、それをすぐに開けて読んだ。
「にきちゃん、だいすき。」
と書いた大きな字が私の目に飛びこんできた。その下にはかわいい絵が描かれている。きれいな色でていねいにぬられている。
(こんなに小さいのに、これだけの手紙を書くのに、いったいどれだけの時間がかかったのだろう。この手紙を書いたとき、一年生さんはずっと私のことを考えてくれていたんだね。)
そう思うと、胸がぎゅっとなって熱くなった。
「ありがとう。」
私はこの言葉しか出てこなかった。精一杯のお礼を言ったつもりだったけど、この言葉だけでは今の気持ちを伝えきれないと思った。ありがとう以外の言葉でこの思いを伝えることができたらいいのにと思ったが、よい言葉は結局、見つからなかった。
 私は、これまで一年生を喜ばせることばかりを考えて、ふれ合い活動を行ってきた。私は一年生にやってあげる人で、一年生は私にやってもらう人と考えてきた。しかし、この考えは間ちがいだったと思う。なぜなら、私だってペアの子からいろんな事を教わっているし、その子と会うことが私の学校に行く楽しみになっているからである。
 そして、私はこの出会いを通して、できるようになったことがある。それは、相手の気持ちに寄りそうことである。例えば、ペアの子が朝元気がないように感じると何があったのか早く知りたくなる。
(今朝は何かあったのかな。どんな言葉をかければよいのかな。)
と、ささいな変化にも気付くようになってきた。
 そう考えると、毎日の私達のくらしは、このような何気ない優しさあふれるやりとりによって支えられているのではないかと思う。これらのやりとりは、自分を応援してくれるし、人の心を強くしてくれる。私もまた、これまで数えきれないほどの人達に関わってもらい支えられてきたのだ。
 このことに気付かせてくれた一年生のペアさんとの出会いに感謝したい。そして、これから私自身が多くの人を支える大人になっていきたい。

 ふれ合い活動でペアになった一年生からもらった一通の手紙。一生懸命書いた一年生からの手紙を見て、ペアの一年生を喜ばせたり、助けたりするのが役目だと思っていた田中さん。そうではなく、自分の方がペアの一年生からたくさんのことを教わっていることに気付くことができた田中さんの心情が細やかに表現されています。
 感謝される立場の六年生がペアの一年生からの一通の手紙を通して、「何気ない優しさ」のやりとりから、相手に寄りそうことの大切さに気付かせてもらい感謝している田中さんは、これから多くの人を支え優しさのやりとりを広げていってほしいです。

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