作文コンクール 
くらしの文集

 

5年生の作品

5年生  「小さな親切」運動賞

自分のためだれかのため

荘山田小 五年 佐々木 葵 希

「葵希ちゃんのかみのびたね。ヘアドネーションするのね。だれかのためにき付するってやさしいね。」
こんな会話をするたびに、わたしのむねはえぐられる思いがした。なぜなら、最初はだれかのためではなく自分のためだったからだ。
 わたしは小学三年生の春、手術をした。頭に小さなできものができたので、入院して取ることになった。大人なら、日帰り手術でいいみたいだけど、まだ子どものわたしは、動くとあぶないから全身ますいでの手術になった。二はく三日、最初はお母さんとずっといっしょにいられて、旅行気分でうれしかった。だけど、手術の日になると、だんだんこわくなってにげだしたくなった。いよいよ手術時間になってかんごしさんが、むかえに来てくれた。手術室までは歩いていった。その足はとても重く感じた。かんごしさんが、
「お母さんは、こちらでお待ちください。」
と言うと、わたしはもっとこわくなって、お母さんの手をぎゅっとにぎって、はなせなくなった。そしてなみだがぽろぽろと出てきた。するとかんごしさんが
「こわいよね。でも先生がすぐ取ってくれるから大じょう夫よ。」
となみだをふいて、わたしの手をにぎって手術室まで連れて行ってくれた。そして手術のベッドにだっこして乗せてくれた。そこからは手に注しゃをしたことしか覚えていない。気づいたら部屋のベッドの上だった。
「葵希ちゃん、葵希ちゃん?」
とお母さんの心配そうな声がしてわたしは気づいた。
(あっお母さんの声だ。手術はどうなったのかな。)
と思った。そこからしばらくすると、先生やかんごしさんが来てくれて手術はうまくいったこと、しばらくボーッとするけれど、大じょう夫なことを言って帰っていった。それを聞いて安心して、そこからまたしばらくねていたみたいだけど、おなかがすいて目が覚めた。
「お母さん、何か食べたい。」
と言って起き上がった。すると、ねていたところにたくさんのかみの毛がどさっとあった。
(えっ、このかみ。わたしのかみの毛じゃないよね。)
とびっくりして自分の頭をさわった。そこにはかみの毛はあったけどよく分からなかったので、鏡で見せてもらった。青い糸でぬったきず口とそのまわりに小さな円でつるつるとした所があった。やっぱりこれはわたしのかみの毛だと分かった。
 退院して一か月後、病院で先生にきず口をみてもらった。
「きずは順調に治ってますよ。ただ、成長とともにきずあとが少し大きくなります。」
と先生は言って、鏡で見せてくれた。きずあとはつるつるしていて一円玉くらいの大きさだった。
(このきずあとがまだ大きくなるの?)
それを聞いて、わたしはショックだった。
 そこからは、毎日そのきずあとをかくすことを一番に考えていた。かみをのばし、きずあとが見えないように毎朝ゴムでかみをくくってピンでとめる。そしてきずあとが見えていないか鏡でチェックした。出かけるときはぼうしをかぶり、なるべく後ろを見られないように人の後ろを歩くようにした。
 そんなわたしの様子を見て、お母さんはヘアドネーションという取組を教えてくれ、一さつの本をプレゼントしてくれた。その本の主人公は、病気の治りょうでかみがぬけてしまった友達のために、自分のかみをおくる決心をした小学四年生の女の子だった。この本を読み終えると、むねの中がドキドキした。そして、はっとした。
(わたしはこのまま自分のためにかみの毛をのばして、かくすことだけを考えていいのかな、人の役に立つためにできることはないのかな。)
と思った。かみの毛がぬけてしまうショックはよくわかる。だからこそヘアドネーションをしたいと思った。
 そこからわたしはだれかのために、ていねいにかみの毛の手入れをするようにした。そしてついにヘアドネーションのドナーになる日がきた。美容しさんに、
「ここまでよくのばしたね。がんばったね。」
と声をかけてもらった。そして、今も次に向けてまたかみの毛をのばしている。何度もヘアドネーションを続けて、たくさんの人の役に立ちたいと思う。
 わたしの頭には一円玉くらいのきずあとがまだ残っている。でももう以前のように後ろを気にして歩くことはない。

自らのつらい経験に向き合い、自分のためではなく、だれかのためにできることを見出した、佐々木さんの決心が、読む人の心を打つ力強い作品です。
 ヘアドネーションの取組と、自身の体験を重ねることで、少しずつ前向きになる様子が、会話文や心内語に豊かに表現され、この活動に対する思いが伝わります。
 終末には、「後ろを気にして歩くことはない。」と力強い表現になっており、これからも続く未来が明るく照らされているようです。だれかの力になるために生きていく佐々木さんのこれからを応援しています。

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