作文コンクール 
くらしの文集

 

4年生の作品

4年生  特選

祖父の手術

広南小 四年 折 出   愛

「ええっ?手術?」
私の祖父は、病気のため、およそ八時間かかる、大手術をすることになった。祖父の病気を治すためには、二つの方法があるということを母から聞いていた。一つは手術をして、完全に治すことができるがリスクが大きい方法。もう一つは、薬などを使い、完全に治すことはできないが、リスクは小さい方法。祖父は迷わず手術を選んだようだ。もちろんリスクはこわいが、それよりも完全に治したいという思いが強いから、私が祖父の立場でも、同じ方法を選んでいたはずだ。八時間もかかる大手術、子どもながらにその難しさは感じていた。(おじいちゃん、大丈夫かな、手術成こうできるかな……。おじいちゃんにもしものことがあったらどうしよう。)治るかもしれないという希望と、もしかしたら、という不安が入り交じっていた。
 ついに手術の日がやってきた。私は朝から心配でそわそわしていた。(きっと大丈夫。大丈夫。)いつもは感じないくらい長い、長い一日だった。その日の夜、手術が成こうしたことを母から聞いた。今までの心配だった思いが一気にあふれ、大粒の涙がこぼれ出した。
 数日後に、初めてのお見まいに行った。(おじいちゃんどんな感じだろうか。元気かなあ。)ドキドキしながら入院している部屋に入った。
「ああ……。」
そこには、手術前とは全くちがう姿になってしまった祖父がしずかに寝ていた。(あんなに元気だったおじいちゃんだったのに。)私は、ショックをかくしきれなかった。(でも、あれだけ長い大手術をしたんだ。当たり前か。)
 手術する前、
「愛ちゃん、愛ちゃん。」
「愛ちゃん、こっち来てえ。」
勉強していると中でも、祖父はおかまいなしに私を呼んだ。(うるさいなあ。もうちょっと待てないのかな。)と思ったこともよくあった。
 祖父は立派なエンジニアとして長い間、海外で仕事をしていた。そのえいきょうもあっておさないころから、さまざまな国の、首都や伝統、文化などを教えてくれた。どれも楽しくてためになる話で、今でもよく覚えている。いつも太陽のように明るく前向きな性格の祖父は、私にショックなことがあるとすぐに、
「大丈夫だよ。また次があるんだから。」
と、いつも明るくはげましてくれた。だからここまで明るく過ごせたのは、祖父のおかげだと思っている。
 私の将来の夢は医者だ。医者になって、困っている人や、苦しんでいる多くの人を、私の手で救いたい。そして、祖父が乗りこえてくれた手術で、医者になりたいという思いがいっそう強くなった。
 祖父の手術後、いつもはにぎやかな家の中が、すっかり静かになったことを感じた。私には、とてつもなくさみしい静けさだった。
 しかし、その静けさの中で気付けたこともあった。いつもは当たり前の存在だったが、私にとって、祖父はとても大切であり、かけがえのない存在だったのだと。今までたくさんの愛情をそそいでくれた祖父、大変なときに勇気付けてくれた祖父、私に夢をくれた祖父。(これからは、私の番だ。弱ってしまった祖父を、私にできることで喜ばしてあげたい。また、あの明るい祖父の笑顔が見たい。)自然と祖父への思いでいっぱいになっていた。退院して、またにぎやかな声が聞こえる日が今から待ち遠しい。きっと以前よりもやさしく、さらに成長した私の姿に祖父はとてもおどろくだろう。その顔を見るのが、今からとても楽しみだ。

 大好きな祖父の体調が悪くなったことをきっかけに、祖父への思いや、自分の夢についての決意が伝わってくる作品です。
 祖父の歩んできた道を誇らしく思っていることや、その生き方から自分の生き方を見つめ直し、次は自分が祖父を喜ばせたいという思いが心内語を巧みに使って表現されていて、とても引きつけられました。
 当たり前ではなく、かけがえのない祖父の存在に感謝する心をもつ折出さんが、医者になるという夢に向かって、希望をもって生活している姿を、応援しています。

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