作文コンクール 
くらしの文集

 

6年生の作品

6年生  特選

友達

広小 六年 吉 岡 紗 良

「さらちゃん、吉岡さん。」
 わたしの名前をよんでもらえる。名前をよんでもらうたびにわたしはとってもうれしくなる。
 四年生のころ、わたしは不登校になったことがある。自分がなぜ学校へ行けなくなったのか自分でも分からないから、親や先生に、
「どうして学校に行けないの?」
と聞かれても答えることができなかった。親は、理由を聞いてもわたしは何も答えないからきっとなまけ病のように思っていたと思う。それがとても悲しくて、悔しかった。
 親にそのように思われていることも悲しかったけど、他にもつらかったことがある。友達の目線だ。学校の廊下から教室の中をこっそり見る。みんな授業に集中している。一生けんめいノートに黒板の文字を写していた。そんな姿を見て、わたしは思う。
(わたし、みんなと違う。)
 一生けんめい授業を受けているみんな。そんなみんなを影から見ているわたし。本当にみじめだ。自分がいったいどんなに恥ずかしいことをしているのか、考えるだけでいやになる。教室に入ってしまえばきっと楽なのに、どうしても入れない。どうして当たり前のことができないのか、どうすればわたしはあの中に入れるのか、考えても答えは出てこない。
 大休けい、友達がわたしをむかえに来てくれた。びっくりした。どうして来たの?どうして来てくれたの?そう思った。
 友達に連れられて教室に入った。みんな、
「吉岡さん!おはよう!」
とさまざまに声をかける。だけどその中に、(どうして休んでいたの?)と言う人はいなかった。その気づかいが、心配させているということに思えた。
 わたしはさらにつらくなった。親や先生にも心配されているのに、友達にまで心配されていたなんて。心配されているということはまるで他の子と違うって思われているみたいで。悲しくなった。わたしは思った。
“一人になることが、こわかった。”
 学校へ行けない理由は分かったが、それをだれかに言う勇気はなかった。言っても学校に行けなかったら、親に「行けないじゃない。」と言われてしまうところを想像してこわくてたまらなくなった。みんなに仲間はずれにされることも、親に失望されることも、とってもとってもこわかった。みんなやさしいし、ぜったいそんな風に思われていることなんてないんだろうけど、そんな考えが頭からはなれなかった。わたしは不安でたまらなかった。
(わたしどうしたらいいんだろう。)
(わたし、このままで大丈夫なのかな。)
 こわくてこわくてたまらない。不安で不安でたまらない。
 そう、わたしは毎日おびえていた。
 そんなわたしが学校へ行けるようになったのは、四年生の修了式のときだ。
(修了式はさすがに出席しないとな。)
 わたしはそう思い、ちょっとおびえつつも教室へ入る。すると教室にいた友達に声をかけられた。
「おはよう。」
 その声を聞き、わたしは目を見開く。声をかけてくれた友達の方を向く。その友達は笑っていた。目の前が急に晴れた気がした。
(そうだったんだ。)
 わたしは気付いた。わたしはここに居てもいいことが分かった。今までわたしは他の子と違うと思っていた。わたしはあの子達と対等にかたを並べてはいけないと思っていたから。わたしは勉強できず、特別仲のいい子もいなくて、学校にすら行けない、とてもみじめな子どもで、みんなみたいに正しくない。正しくなれない。そう、思ってた。
 だけど、みんなは違っていた。みんなわたしを一人にはしなかった。まるでわたしのことを友達だって思ってくれているみたいに。そのことが、その事実がわたしの世界を変えてくれた。わたしは思う。強く、強く、思う。
(みんな、ありがとう。)
 そうして、わたしはやっと心からの笑みをうかべた。
 今、わたしは小学六年生だ。あれからわたしは学校へ行けるようになった。まわりの友達は常にやさしかった。いっしょにお話をしてくれたり、帰りもいっしょに帰ろうとさそってくれたり、わたしはみんなが大好きだった。
 わたしにはたくさんの友達がいる。わたしは思う。わたしと友達になってくれて、ありがとうって。

不登校から学校へ行けるようになったときの吉岡さんの心の葛藤が素直に表現され、引き込まれる作品でした。
 学校に行けなかった理由に気づいたきっかけも、居場所が学校にあると分かったきっかけも、友達からの「おはよう。」という言葉だったことが興味深かったです。自分と向き合い、心の中をていねいに書くことで、吉岡さんの心を変えた友達の言葉が引き立っているように思います。「わたしと友達になってくれて、ありがとう。」と思える気持ちが素敵で心に残りました。吉岡さんが心から笑える一日一日が積み重なっていくことを願っています。

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