作文コンクール 
くらしの文集

 

6年生の作品

6年生  もみじ銀行賞

三年生のぼくが教えてくれたこと

安浦小 六年 廣 川 翔一朗

「なんじゃ、その顔は。もう帰れ。」

 突然、かんとくに怒鳴られた。その日は、小雨の中での新人戦。背番号一をつけて、ピッチャーでの初登板だった。

 ぼくは、三年生のころから安浦アニマルズという野球チームに入っている。去年は、ずっといっしょに汗を流してきた一つ上の先輩たちがいて、公式戦、招待試合と毎週優勝をくり返す最高のチームワークで結ばれていた。しかし、今年のチームは、チームの半分が三年生以下。誰一人として、けがや病気で休むこともできないぎりぎりの人数で成り立っている。去年ぼくがピッチャーをしたチームは、守りが固く、少々打たれてもアウトにしてもらえ、安心して打者に向かっていけた。

 だが、その日は、打ち取ったはずのゴロもフライもホームランになってしまった。投げても投げてもアウトが取れない。(もうだめだ。やってられん。)ぼくの心は顔に表れていた。それが、かんとくが怒鳴った理由だ。その日は、そのまま大雨になり、試合は終わった。ぼくは、その場から逃げるように家に帰った。

 家に帰り、ソファーで肩を冷やしても、やりきれない気持ちはおさまらない。そんなとき母が、ぼくが三年生のときのビデオを見せてくれた。そこに映っていたぼくは、まるまる太っていて、バッターボックスに立っても、かんとくのサインを見忘れている。どんなボールにも大きく三回フルスイングし、ベンチにとろとろもどると、かんとくやコーチは、

「ナイススイング。空振り三振はOKOK。」

とほめていて、ぼくは満足そうな顔をしている。(おれもそうだったんだ。)としょうげきを受けた。当時のぼくは、バッターボックスに代打で立てることがうれしくてうれしくてたまらなかった。チームのために次につなげようと、小さい体を生かしてフォアボールをねらうなど、全く考えてなかった。守備でアウトをとるなんて、とうてい無理だった。ビデオを見ていると、ぼくがサードを守っている姿があった。ぽろぽろ何こもエラーをして、やっととったと思えば大暴投とひどい姿だった。そのときのピッチャーも、(もうだめだ。やってられん。)と、本当にくやしい思いをしていたはずだ。今になって申し訳ない、つらい思いをさせてしまったなどの反省の気持ちが次々とこみ上げてきた。けれども、当時の六年生はいやな顔をせず、

「翔一朗、もっと前に出て。楽に楽に。ドンマイ。」

と、横で体をつかって教えてくれていた。休けい時間も、いっしょにおにごっこをして遊んでくれ、ぼくは六年生が大好きだった。何より、三年生のぼくは楽しそうで、本当に野球が好きだという顔をしていた。あのころは当たり前だと思っていたことが、今のぼくにはできているか。今のぼくは、去年の強いチームが忘れられず、今のメンバーをあきらめて本当の仲間になろうとしていないのではないだろうか。ぼくは三年生のころに比べると体もひきしまり、大きくなった。心も体も強くなったはずだ。これからは、ぼくたち六年生が中心となり、新しい安浦アニマルズを作っていかなければならないということに気付かされた。

 次の日は晴天で、練習が行われた。昨日怒鳴られたので、かんとくと顔を合わせるのがばつが悪くどきどきしたが、その気持ちを打ち消すように大きな返事をしてかんとくを見上げた。かんとくがいつもと同じ接し方をしてくださったのでほっとした。

 三年生になったばかりの仲間は、ぼくの三年生のころに比べると上手で試合経験も多い。よそのチームにいたら、とてもスタメンで出るには早すぎる学年だが、ぼくたちには大切なメンバーだ。ぼくは、自分が教えてもらってきたように下級生を育てていこうと心を入れかえた。エラーをしたときには、その後どうしたらよいか手本を見せたり、声をかけたりするようにした。学校でも野球でも、最高学年は、大切な立場だと改めて感じた。そして、ぼくも上級生に支えてもらっていたから、安心してプレーできていたということにも気付かされた。公式戦では、二試合続くと体力も集中力もきれて残念な結果になってしまうことも多い。だが、下級生がヒットを打ったりアウトをとったりすると、チームが盛り上がり、それが力になって勝利することもある。

 背番号一を付けたぼくは、もう、どんなにちびっこチームでも、ぎりぎりの人数でも、それを言い訳になんかしない。一生けん命プレーをする仲間を信じ、助け合い、はげまし合い、せいいっぱいの力を出しきれば、勝てるという希望があるからだ。いや、きっと勝てると信じている。

 今日も、ぼくは、どんなピンチがやってきても、仲間とともに前を向いて戦っている。

 チームのメンバーを見て、勝つことを諦めかけていた廣川君。そんなとき、母が見せてくれた三年生の時の自分の姿。お世辞にも上手とは言えない自分のプレーに、先輩は温かい声をかけてくれていました。自分が今まで楽しく野球を続けてこられたのは、周りの人の励ましがあったからなのだと三年生のぼくが教えてくれます。
 仲間と一緒にがんばっていこうと決意していくまでの心情が巧みに表現されている作品です。自分の行動を反省し、仲間を信じ、生き生きと野球に取り組む廣川君の率直さは、読者を温かい気持ちにさせてくれます。

前のページに戻る

お問合せはこちら   もみじ銀行  経営管理部  電話:082-241-3043(平日午前9時~午後5時)

Copyright(C)  THE MOMIJI BANK, Ltd. All Rights Reserved.