作文コンクール 
くらしの文集

 

5年生の作品

5年生  もみじ銀行賞

いっしょにいることで

呉中央小 五年 南 原   紫

(あ、今日は何だかすごく楽しそうだな。いいことあったのかな。)
 私が通う放課後学童クラブは、保育園と学童クラブ、そして障がいをもつ人が通う生活介護施設が一つの建物にある、少しめずらしい所です。私はこの学童クラブで、保育園のときから数えると、もう八年間お世話になっています。学校が終わると、私は学童の先生や友達と勉強したり遊んだりして過ごします。この学童と同じフロアーに、生活介護の部屋があります。様々な年の、様々な障がいをもった人が生活していて、時々私達が宿題をしている部屋にひょっこり遊びに来ます。すると学童の先生が、
「みんながちゃんと宿題やっとるか、見に来たぞ。」
と笑いながら言います。先生はそう言うけれど、宿題にはあまり興味が無い様子でみんなの顔をちょっと見た後そばに座ります。宿題が終わるまでそばで見守ってくれるときもあれば、少しいて帰っていくときもあります。初めて遊びに来たときはびっくりしたけど、今ではすっかり慣れました。(子どもが好きなのかな。)と思います。時々、悲しそうに泣いている人がいて、みんなが心配しているときには、先生が、
「だいじょうぶじゃけん、静かに見守って。」
と教えてくれました。みんなで大きな声を出さないように静かに遊んでいると、安心したのかだんだん落ち着いてきて涙が止まりました。
「落ち着いてよかったねえ。」
と、みんなでほっとしました。言葉で気持ちを説明できない人が多いのですが、いつもいっしょに過ごしているからか話さなくてもその人の思いを感じることができます。よく見ていると、車椅子に座っていつも静かに本を読んでいる人、絵を描いて色ぬりを楽しんでいる人、大きな声で笑いながらとび跳ねている人、それぞれの楽しみ方があることに気付きました。(自分の世界があって、自分の考えがある。私と同じだな。)と思いました。
 ある日のことです。代休で朝から学童にいるとき、普段は私達が学校に行っている間、生活介護に来られる人達に掃除をしてもらっているので、今日は私達でしようということになりました。私が、集めたごみを一人でちりとりに入れているのを見て、ある利用者さんが何も言わずにそっとちりとりを持ってくれました。「ありがとうございます。」と言おうと思ったら、ふいっと何も言わずにどこかに行ってしまいました。(見ていないようで、私達が掃除をしているのを見てくれていたんだな。)
と、なんだか嬉しくなりました。
 夏休みなどで長い時間学童で過ごすときは、いっしょにイベントを楽しみます。キーホルダーを作ったり、ボーリングやエアーホッケーで遊んだりすると、いつも静かな人も大きな声を出し、表情が楽しそうな笑顔に変わります。ゴールに入りそうで入らなかったとき、学童の仲間みんなで、
「おしい!」
「次、いけるよ。」
とはげますと、次はがんばるぞという表情になりました。ゴールに入ると、とても嬉しそうに喜んでいました。私がけん玉を見せたり、ボーリングで六、七本ピンを倒したりしたときは、
「すごいね。」
と大きな声で言ってくれたり、言葉で表せない人も笑顔ではく手をしてくれたりしました。話さなくても、気持ちは伝わります。生き生きと楽しんでいる利用者さん達といっしょにいると、(自分らしく心のままに生きているんだな。仮面をつけたり、心をとざしてしまわないようにありのままでいてもらいたいな。)
という思いがわき上がってきました。(もっと障がいをもつ人の心が知りたい。)と考え、学童にある『自閉症のぼくがとびはねる理由』という本を読んでみました。そこには、自閉症と共に生きる東田さんの心の声がたくさんつまっていました。(そんなふうに感じるんだ。伝えたい気持ちがたくさんあっても、伝えられないことが苦しいんだ。でも、私だって自分の思いを上手く言葉にできないときがよくある。障がいがあっても無くても、そのときの悩む気持ちは同じなんだな。)ということに気付きました。そして、言葉ではなくても表情で、体で、声で、今の気持ちを全力で教えてくれる人たちを助けられる自分になりたいと思いました。
 今日も宿題に頭をかかえる私のそばに、そっとおとなりの仲間が座っています。ついたての向こうからは、
「いー。いえーい。」
とペンで絵を描く人の楽しそうな声がひびいています。いっしょにいることで嬉しい、楽しい。そんな学童は、私の大切な場所なのです。

障がいをもつ人と関わりながら、その心を知ろうと努力する南原さん。
 たとえ言葉がなくても気持ちを理解できることや、障がいをもつ人も自分も悩む気持ちは同じなんだと気付いていく過程が丁寧に描写されていて、南原さんの心の優しさが感じられる作品です。
 相手のことをより理解しようとするために、同じ時間を過ごし、相手をよく見て思いを感じ取ろうとしたり、本を読んで学んだりする姿に心を打たれました。
 「自分らしく心のままに」と願う南原さんの気持ちが周りにも伝わり、優しい世界が広がっていくことを願っています。

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