2年生 呉市教育委員会賞
ちゃんとぬけていて、よかった
横路小 二年 長 﨑 菫
「いやだ、もうやだ。ぜったいいやだ。」
おふろ場にわたしの声がひびきました。
「こわくないって。つぎはぜったいぬけるから、ね。」
わたしの声をとめるようにして、おかあさんのゆびがわたしの前ばのうらにひっかかりました。(さっきだってそう言ってぬけんかったじゃん。もういいってば。)わたしはそう思いながら、ひっしにおかあさんの手くびをにぎりしめました。ゆびに力が入って、はをひっぱりはじめているのをかんじました。心ぞうがきゅっとしました。
「わぁぁぁぁぁ。」
ゴキッ。おふろ場の中は、時間がとまったようにしずかになりました。これまで何回もぬくのをしっぱいした時は、あんなにいたかったのに、ぬけたしゅん間はふしぎなくらいいたくなかったことにおどろきました。ぬけて空いたはのすき間から、いきがスースー入ってくるのをかんじました。べろで前ばがあったところをつついてみると、はぐきが当たってプニプニしました。口の中は、少しちのあじがしました。心ぞうの音がまだドクドクなっているのが聞こえました。
「おめでとう。」
おかあさんがそう言ってぬけた前ばをわたしてくれました。きれいにぬけた白いはを見て、(ちゃんとぬけていて、よかった。)と、ほっとしました。
そのあと、ぬけたはを家のにわになげました。おかあさんが教えてくれた、いいはに生えかわるためのおまじないです。わたしは、はがぬけたおいわいをしているみたいでうれしかったので、(またやりたいな。)と思いました。
「また、ぐらぐらしてもいいよ。」
わたしはにわの草むらにむかって、小さい声でささやきました。
ひょう
会話文からはじまる書き出しで、一気に読み手を作品に引き込みます。怖がる長﨑さんの様子が、「ひっしにお母さんの手くびをにぎりしめた。」や「心ぞうがきゅっとした。」等の表現によって、ありありと目に浮かべることができます。また、歯を抜く時のゴキッというにぶい音や、抜けた後の、スースー、プニプニ、ドクドクという擬音語や擬態語が用いられていることで、臨場感にあふれ、テンポよく作品を読み進めることができます。
今の年代ならではの作品。次は、どの歯がぐらぐらするかな。おまじないがあるから、次はきっと大丈夫ですね。